現役地銀行員の実状
ちょっと不便なことと、就活生が内定前に確認すべき注意点
今回は現役の地銀行員として、日々感じている「ちょっと不便なこと」と、これから地銀を目指す就活生に知っておいてほしい「福利厚生の落とし穴」を話します。
この記事を書こうと思った理由について
一番の理由は、良い意味でも悪い意味でも学生の頃にイメージしていたものとのギャップを感じ、今就活している学生さんには事前に知っておいてほしいと思ったからです。
入行前の説明会では、「ノルマは厳しくない」「残業はほとんどしたことがない」という内容をどの行員さんも座談会でお話ししていました。ですが、実際に学生が想像する「残業が無い」と、社会人の考える「残業が無い」には多少のズレがあります。同じように、学生が想像する「ノルマが無い」と社会人の考える「ノルマが無い」にも多少のズレが生じます。
ノルマに関しても、数字を追うことに全くストレスが生じないわけではなく、やはり定期預金のキャンペーン期間は他の支店よりどれだけ多く取れるかに気を張りますし、普段から投資信託などを取れるチャンスをひたすら狙っています。
説明会で「全く数字のプレッシャーが無い」ように取れる発言を聞いても、それは数字を追わなくて良いという意味ではなく、「いわゆる昭和のようにノルマを達成しないと帰れないなど、生活に支障をきたすことはないですよ」という意味に解釈する方が適切です。
この記事を読んで「銀行って厳しそう・しんどそう」と思ってほしいわけではなく、社会人になるとどのようなことで大変さを感じるかを先に知って、自分の中で心の準備をするきっかけになればと思います。
その1
どんな場所でも油断禁物。コンプラはずっと意識する
同期と居酒屋に集まって支店の噂話や仕事の愚痴を話したいとき、個室だからといって安心はできません。皆さんも居酒屋の個室で飲んでいても、隣の部屋から酔っぱらったサラリーマンの大声が聞こえてくることがよくあると思います。
配属後初めての同期飲みで、隣の席から聞こえてきた会話が明らかに同じ銀行の行員のものだとすぐ分かりました。銀行員しか使わない専門用語や、うちの銀行にしかない支店名が聞こえたからです。噂話も筒抜けで、非常に気まずい思いをしました。
居酒屋で顧客の話をしてしまい、それをたまたま聞いていたお客様からクレームが入り、処分された行員が過去にいます。若手が仕事の愚痴を言っていたのが翌日上司にバレて詰められたケースも。まさに「壁に耳あり障子に目あり」です。
銀行員は一般の会社員よりコンプラに気を使う?
例えば、電車の中でお菓子メーカーの人が上司の噂話を言っても、「誰々さんの噂話をされてる!」と気づくのはその会社の関係者か、その上司の知り合いくらいでしょう。でも、学校の先生が校区の近くで他の先生の噂話をしたら、うっかり生徒や卒業生、保護者に聞かれて危ないのは想像できますよね。それに似た部分が銀行員にはあります。
銀行は地域の方が窓口に来て手続きをするだけでなく、大切な資産の運用に関わったり、外回りをする渉外(営業)の行員がご自宅に伺い集金などをすることも多々あります。ということは、顔や名前を覚えていただくことも多く、飲み屋や電車の中で人に聞かれてはいけない会話はできないのです。
支店から離れた地域でも、どこに銀行のユーザーがいるか分からないため、友人と電車で話すときも「〇〇銀行」という固有名詞は使わずに「うちの会社」という表現にすることで、お客様がもし周りにいても分からないようにしています。
支店外や銀行外に漏れてはいけない個人情報などは話さないにしても、銀行員とわかるような仕事の話題は、カラオケや友人の家など誰にも聞かれない場所でしか出さないようにしています。
銀行のルールと、それを絶対に破らないためのマイルール
うっかり持ち帰りを防ぐ「白い裏地」と荷物の徹底管理
私が働く銀行では、個人情報はもちろん、それ以外の資料も上司の許可がないと自宅に持ち帰れません。でも監査のたびに「間違ってカバンに入っていた」という方が定期的にいます。
私はそうならないために、カバンが中までしっかり見えやすいデザインを選んでいます。中の色が黒いと中身が見えにくく、うっかり入れても気が付きにくいですが、中身が明るいと身に覚えの無い物が入っていた時に気が付きやすいのではないかと思い、中の布が白いビジネスバッグを探しました。
あと、当たり前ですが、カバンに不要なものは入れず本当に必要最低限の物だけで出勤することも徹底しています。毎日カバンの中が整理整頓されている状態がキープされていれば、うっかり持って帰ってはいけない書類が混ざることはないからです。
銀行以外の友人との「コンプラ意識の差」
もう一つ気をつけているのが、銀行以外の企業に就職した友人との会話です。公共の場で「〇〇銀行ってさー」と企業名を出して大きな声で話されると、正直あまり嬉しくありません。どこにお客様がいらっしゃるか分からないので、個人的には公共の場で銀行名を出されたくないのです。
悪気のない会話でもクレームにつながるリスクがあるため、友人には「公共の場では企業名を出さないでほしい」と伝えています。仕事の愚痴やエピソードトークも、家族を含め社外の人間には基本的に話さないようにしましょう。どこから漏れて問題になるか分かりません。
自分たちにとってはただの友人との会話でも、お客様にとっては不適切と取られる可能性を意識した方が自分の身を守れると考えて生活しています。
その2
県外配属の渉外担当は、疲弊するスピードが早い
地銀ならではの悩みとして、「拠点の県以外に配属された渉外担当の疲弊が早い」という点も挙げられます。関西に住んでいる人が四国の地方銀行をいくつ知っているでしょうか。関東の人が関西の地方銀行を挙げられるでしょうか。就活をするまで知らなかったという人が多いはずです。これが地方銀行の厳しい現実です。
知名度の低さが招く新規開拓の壁
地元の中心地域であれば銀行と地域住民の間に信頼関係があり、外回りの行員にお茶を出して気遣ってくださるお客様も多いです。しかし県外の知名度がない地域で、見ず知らずの銀行員が飛び込み営業をしても、応対してもらえる確率は極めて低くなります。名前もよく知らない銀行にお金を預けたり借りたりするのは、お客様からすれば不安で当然です。
なぜ「新しく進出してきた地銀」は相手にされないのか
- 個人客の場合:給与口座や公共料金の引き落とし(指定金融機関)が、その地域のメイン地銀やメガバンクで既に固まっており、他県の地銀で口座を作る理由がない。
- 法人客の場合:すでに地元の銀行や信金と付き合いがあり、よほど金利条件などが良くない限り、知名度のない他県の銀行に乗り換えるメリットがない。
突破できる営業力がある人は残りますが、夏の暑い日も雨の日も一軒一軒回り、思うように数字が取れないままメンタルを保つのは本当に大変です。「誰が何件取ったか」は支店内で共有されるため、それに耐えられるメンタルも必要になります。
新入行員から見た、数字のプレッシャーに強い先輩行員さんの特徴
支店の渉外の先輩たちを間近で見ていて感じるのは、真面目すぎる人ほど断られ続けたときに自分を責めて疲弊してしまうということです。
逆に、大変な環境でもうまくやっている先輩を見ていると、「断られて当たり前」「今日は話せただけ良し」と良い意味で鈍感力を持っていたり、休日は仕事の連絡を忘れて趣味に没頭したりと、オンオフの切り替えが異常に上手いです。
そもそも飛び込み営業は上手くいかなくて当たり前な部分があり、どれだけお話する機会の中で信頼していただくかが鍵だなと見ていて思います。いずれ自分も渉外に出る日が来るという中で、先輩たちの行動を見ていると、とにかく外に出ている人は結果が出ているなと感じます。
その3
異動のたびにリセットされる「住宅・通勤手当ガチャ」
銀行では異動のたびに通勤環境が大きく変わります。ここで注意したいのが、内定前に聞いていた条件と「実際の運用」にズレがあるケースです。
「時間」だけでなく「距離」の条件が隠れている
私の場合、入行前は「片道1時間30分以上で住宅手当支給」と聞いていました。しかし実際には「片道100km以上」という隠れ条件があったのです。
時間は十分に超えているのに距離が5km足りず、住宅手当はゼロ。一方、時間はギリギリでも距離が6km遠いだけの先輩は手当をもらっています。最寄り駅が各駅停車しか止まらないという運の悪さだけで、通勤が想像よりかなり大変になることがあります。
「片道1時間40分・手当ゼロ」のリアルな1日と金銭事情
説明会では「1時間半を超えれば住宅手当が出る」と聞いており、家から近い支店か住宅手当が出る支店のどちらかだと思い内定を承諾したのですが、入行後よくよく人事に確認すると「距離が足りないから出せない」と言われました。
私の場合、電車が全て座れるのでなんとかなっていますが、これが車通勤や満員電車だったら大変だっただろうと思うので要注意です。
私の一日のスケジュール(片道1時間40分通勤)
起床。シャワーと歯磨きで目を覚ます
身支度と朝ごはん
家を出る
支店の最寄り駅に着く。お弁当を持ってこれなかった日はパン屋さんでお昼を買い、それ以外の日は駅のベンチで日経新聞を読んで時間を潰す
支店に行く
仕事
帰宅(直帰の場合)
勉強 or 趣味
ご飯とお風呂
勉強や副業・趣味の時間
就寝
通勤とお金の話:実家から通うからこそ「毎月6万円のNISA投資」が続けられる現実
もし私が、通勤の大変さに負けて支店の近くでオートロック付きの部屋を借りて一人暮らしをしていたら、今とどれくらい違うのか比較してみます(光熱費等は一人暮らしを始めた同期にアドバイスをもらいました)。
【シミュレーション】手取り約23万円で一人暮らしをした場合の月間予算
- 家賃・共益費(オートロック付き):約70,000円 〜 75,000円
- 水道光熱費・通信費:約15,000円
- 食費・日用品:約40,000円
- 貯金(NISA):約30,000円 〜 40,000円
- 交際費・服飾・美容:約30,000円
この通り、家賃や生活費で毎月カツカツになり、自分の将来のための資産形成に回す余裕なんてほとんどなくなっていたはずです。しかも、ここから旅行や趣味に使うお金がかかってくるとなると厳しいのが現実です。
しかし、今はまだ実家から(片道1時間40分かけて)通っているからこそ、状況は全く違います。
【現実】手取り23万円の使い道(現在の実家暮らし)
- 毎月のNISA積立(オルカン等):60,000円
- 残りの自由なお金:17万円程度
通勤は確かにしんどいし、「住宅手当の距離ガチャ」に外れた不条理さにイライラすることもあります。それでも、毎月6万円というまとまった金額を着実にNISAに突っ込んでいけているのは、「実家暮らしで固定費を抑えられているからこそ得られている最大のメリット」です。
しかもお金に余裕があるので、社会人になってからもう3回海外旅行に行けています。この経験は捨てられません。「毎朝の通勤地獄を取るか、それとも将来の資産形成や今の経験のための資金を取るか」――。不便な通勤時間を耐え忍んででも、今は若いうちのキャッシュと投資枠を最大化する方が自分にとっては幸せなので、そちらを選んでいます。
往復3時間20分の通勤時間の過ごし方
往復3時間20分の電車内で実際に何をしているかというと、寝不足の日は潔く寝ています。余力がある日は勉強するか、家でわざわざ時間を取る必要がないけれどやっておきたいことに時間を割いています。
例えば、メールアプリに溜まった不要なメールを消したり、写真フォルダのいらないスクショを消したり、あとはクレカのアプリを開いて不正利用されていないか確認したりしています。できるだけインスタなどのショート動画は見ないように気をつけています。勉強をする日は、必要なページだけをコピーしておくなど、電車内で勉強しやすいように準備してくる日が多いです。
「謎ルール」と「前例主義」
バス代の謎ルール
駅から自宅が遠いとバス代が出ると聞いていた同期。自宅から駅まで1.6km、山あいの急な坂道なのに「2km以上離れていないと支給されない」というルールにより、真夏も雨の日も徒歩通勤を強いられています。
車通勤の前例主義
最寄り駅に電車が1時間に1本しかない支店に配属された同期。会社説明会では「車通勤OK」と言われていたのに、「今の支店に車通勤している人がいない」という理由で支店長の許可が下りず、電車通勤になりました。
地方だからこその通勤の不便が多いです。もし思ったような通勤手段が使えなくても耐えられるか、もしくは絶対に自分がバスを使える基準を満たしているか、内定承諾前に確認することが大切でした。
カドを立てずに質問するコツと、確認すべきタイミング
面接や座談会で「細かい手当の条件はどうなっていますか」と詰め寄るのはカドが立ちそうで躊躇するもの。支店訪問などでは、次のように遠回しに聞いてみるのがおすすめです。
「一番遠くから通っていらっしゃる方は、どのあたりにお住まいですか?」
(距離感の把握)
「今までの支店で、車通勤をされていた方は体感で何割くらいいらっしゃいましたか?」
(実態の把握)
現場のベテラン行員にこういった質問を投げかけることで、説明会だけでは見えない実態が見えてきます。なお、手当の正式な支給条件については、人事担当者にも確認することが大切です。
あとは、「内定は出ているけど承諾する直前」にもう一度詳しく聞き倒すべきだったと思います。最終面接後に内定者面談がありましたが、早く就活を辞めたいのもあってすぐに承諾してしまいました。「内定があるけど承諾していない」というある意味一番強い時に、勇気を出して確認しておけばよかったです。
支店訪問や座談会で「前例主義・古い体質」を見抜く観察ポイント
質問の回答内容だけでなく、入行してみて分かった「ここを見ればその銀行(支店)の風通しの良さが分かる」というチェックポイントを挙げます。
支店見学で見るポイント
- 支店の偉い人と若手が話している時、若手の表情が必要以上に固くないか
- 若い女性行員が誰もネイルをしていない、なんてことがないか(必要以上に厳しい可能性がないか見られるポイント)
- 行員の机上に一つもキャラもののペン立てやケースなど、個人の持ち込んだものがない、なんてことがないか(これも必要以上に厳しい可能性がないか見るポイント)
座談会で聞くこと
- 残業時間ではなく、「支店を出てからの過ごし方」を聞く(ここで趣味の話などが出てこなければ要注意)
- 支店の飲み会のペース(断りにくくても、全然負担にならないペース感かどうか)
入行前に、これだけは確かめよう
- 口コミサイトを活用して、制度の「運用実態」を調べる
- 可能であれば、退職したOB・OGを探して話を聞いてみる
- 住宅手当は「時間の条件」だけでなく「距離の条件」まで確認する
- 支店訪問での質問文はひと工夫する
企業が発信する情報だけで安心せず、自分の中で譲れない条件は多角的に確認するようにしてください。
就活生の方に向けて
絶対に地元で就活したい人にとっては、地銀はそれなりに安定したイメージで選択肢の一つになりがちだと思います。コンプラ意識がしっかりしているからこそ、他業界に比べて厳しい部分も多いです。
自分が今何に幸せを感じていて、「これが人生を豊かにしている」と言えるものは何ですか?それは地銀に入っても手放さずに守れるか、もう一度しっかり考えてみてください!
入ってしまえば、学べることも多く良い仕事を選んだと思っています。一番納得感のある就活ができるように祈っております。




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